深夜1時。酔いが回り始めた常連が、声を荒げている。
「なんであの子が来ないんだ」「料金がおかしい」「もっとちゃんとしてくれ」——内容は何でもいい。感情が先に出ている状態だ。
この瞬間、黒服か店長がどう動くか。それを見ているのは、騒いでいるお客さんだけじゃない。同じ空間にいる全員が、その店の対応を観察している。
クレームの「本体」は言葉の中にない
酔った状態のクレームで、言葉の内容をそのまま受け取ってもうまくいかない。
「あの子が来ない」は「自分が軽く扱われている」という感情を言語化している。「料金がおかしい」は「ちゃんと説明してほしかった」という気持ちが出口を探している。「もっとちゃんとしてくれ」は「今夜は楽しくなかった」という感想だ。
言葉に反論しても、感情は収まらない。「あの子は今他のお客様のところに」と正確な説明をしても、「そういう話じゃない」という空気になる。「料金はメニュー通りです」と伝票を見せても、「わかってるけどそういうことじゃない」と返ってくる。
大事なのは感情を受け取ることだ。言葉の正誤よりも先に。
まず「受け取る」
型として持っておきたいのは、最初の5秒で言い訳や説明をしないことだ。
「おっしゃる通りです」「ご不満をおかけして申し訳ございません」——これが先に来る。内容の確認は後でいい。
人は「理解された」と感じた後は、次のステップに進む準備ができる。「いや、そういうことじゃないんだが…」という返しが来なくなる。
逆に、最初に説明や反論をしてしまうと、「この人はわかってくれていない」という感情が強化される。そうなると何を言っても届かなくなる。
「個室化」する
フロアの真ん中でクレームが広がると、他のお客さんにも飛び火するし、スタッフもパニックになる。
可能であれば、早い段階でより落ち着いた空間に移す。個室がなければ、奥の席でもいい。「ゆっくりお話を聞かせてください」と移動を促す。これだけで、お客さんの感情の温度が少し下がることが多い。
動いている、という行為自体が「この問題は今対応している」というシグナルになる。
対応者は一人に絞る
複数のスタッフが入れ替わり立ち替わりで対応すると、お客さんは「たらい回しにされている」と感じる。
クレームが発生したら、対応者を一人に固定する。その人が「今夜の担当」になる。他のスタッフは引き継ぎ情報を共有しつつ、表に出ない。
一人の人間が責任を持って最後まで向き合う姿勢が、お客さんの感情を落ち着かせる。
解決を急がない
「早く解決しなきゃ」という焦りが、対応を雑にする。
深夜のクレームには時間がかかって当然だ。30分かかることもある。でも、急いで「まあこれで勘弁してください」という決着より、時間をかけて納得してもらう方が、その後の関係が続く。
早く終わらせたいあまり、無条件の謝罪や過剰な補償をしてしまうと、「言えばなんでも通る」という印象を与える。次の来店で似たことが起きたとき、同じかそれ以上のことを要求される。
「わかりました、今夜は無料にします」という対応が必ずしも正解じゃない。
記録に残す
対応が終わったら、何があってどう対応したかをメモに残す。
簡単なものでいい。「誰が」「何時頃」「どんな内容で」「誰が対応して」「どう解決したか」。これがあるとないとで、次の来店時の対応が変わる。「前回こういうことがあったから今回は○○を先手で」という準備ができる。
クレームは一回で終わらないことが多い。同じお客さんが同じような状況になることを見越した対応ができるかどうかが、「慣れている店」と「慣れていない店」の差だ。
深夜クレームは、予防できるものと予防できないものがある。
予防できないものに備える型を持っているか。それが問われている。
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