月曜日、いつもの時間にLINEを送った。既読がつかない。
火曜日も既読がつかない。水曜日、ようやく既読がついたけど返事はない。木曜日、「最近忙しくて」と一言だけ返ってきた。
金曜日、そのお客さんは来なかった。翌週も来なかった。翌月も。
そのお客さんは月に80万から100万を使ってくれていた。彼女の売上の半分以上がその一人から来ていた。一人が消えただけで、ランキングは圏外に落ちた。
投資の世界では「常識」の話
投資の格言に「卵を一つのカゴに盛るな」というのがある。
全財産を一つの株に投資して、その株が暴落したら全てを失う。だから分散する。10銘柄に分ければ、1つが暴落しても残り9つでカバーできる。これは投資の世界では初日に教わることだ。
キャストの売上構造は、投資のポートフォリオと全く同じ構造をしている。
お客さん一人ひとりが「銘柄」だ。そのお客さんがいくら使ってくれるかが「リターン」で、来なくなるリスクが「下落リスク」。太客に集中するのは、一つの銘柄に全財産を突っ込むのと同じだ。
リターンが大きいときは最高に見える。でもリスクも最大になっている。
太客がいるキャストほど、実は不安定
これは直感に反するかもしれない。太客がいる子は「安泰」に見える。毎月の売上が読めるし、ランキングも安定する。でも内実は違う。
太客がいると、他のお客さんへの営業が手薄になる。当然だ。月に100万使ってくれる人に時間を使った方が、効率がいいように思える。5万円のお客さんを20人相手にするより、100万円のお客さんを1人大事にした方が楽だし、結果も出る。
でもそれは、100万円が永遠に続くことが前提の計算だ。
太客が来なくなる理由は、予測できないことが多い。仕事が忙しくなった。転勤した。お金がなくなった。彼女ができた。飽きた。——どれもキャスト側ではコントロールできない。ある日突然、前触れなく起きる。
そのとき、手元に残るのは「太客がいた時代に手薄にしていた、他のお客さんとの関係」だ。半年間ろくにLINEも送っていなかった5万円のお客さんが、急に呼んで来てくれるか。厳しいだろう。
「ある月曜日」の話
あるキャストの話をする。
その子は入店2年目で、太客がついた。月の来店は4〜5回。一回あたり20万前後。毎月安定して80〜100万が入った。彼女の総売上が月150〜180万だったから、一人の客が50%以上を占めていた。
ランキングは安定して5位以内。同期の中では「勝ち組」だった。他の子が必死にLINEを送って週末のフリー客を取り合っている間、彼女はそのお客さんの来店日だけを確認していればよかった。
3月のある月曜日、LINEの返信が来なくなった。
理由は後から分かった。会社の異動で東京を離れた。事前に教えてくれなかったのは、たぶん言いにくかったからだ。あるいは、そこまでの関係ではなかったのかもしれない。
4月の売上は70万に落ちた。5月は50万。他のお客さんとの関係を取り戻そうとしたが、半年間の空白は簡単には埋まらなかった。「最近連絡なかったのに、急にどうしたの」と思われていたのは、彼女自身が一番分かっていた。
「太客を大事にするな」ではない
誤解してほしくないのは、太客を大事にすること自体は正しいということだ。
フォロワー1万人より、常連3人の方が稼げる話で書いたように、深い関係のお客さんほど売上に直結する。太客との関係は、キャストにとって最も価値のある資産だ。
問題は「太客に依存すること」であって、「太客を大事にすること」ではない。
この二つは似ているようで違う。
太客を大事にしながら、同時に他のお客さんとの関係も維持する。これが「分散」だ。投資で言えば「メインの銘柄は持ちつつ、他にも分散して持っている」状態。メインが下がっても、ポートフォリオ全体では致命傷にならない。
売上の「形」を意識する
具体的にどうするか。
まず、自分の売上の「形」を把握する。上位3人のお客さんが売上全体の何%を占めているか。
- 上位3人で80%以上 → 危険。一人でも消えたら崩壊する
- 上位3人で50%前後 → バランスはまあまあ。でも上位1人の比率が高すぎないか注意
- 上位3人で30%以下 → 分散されている。安定度は高いが、深い関係を作れているか見直す
理想は、「核になるお客さんが数人いて、その周りに中くらいのお客さんが10人以上いる」形だ。核が一つ消えても、他の核と周辺で支えられる。
次に、太客に時間を使いすぎていないか確認する。来店日以外の日に、他のお客さんにLINEを送っているか。フリーの日にヘルプで新しいお客さんと出会えているか。太客の来店がある週の、他の曜日の過ごし方を見直す。
「来なくなったとき」を想像する力
キャストの中で長く安定している子は、不思議な共通点がある。「今が一番いい状態」のときに、「これが崩れたらどうなるか」を考えている。
太客がいてランキングが安定しているときに、その客が消えた後のことを考える。売れている時期に、売れなくなったときの備えをする。
キャバ嬢に「上がる」キャリアパスがない問題で書いたが、この業界は「今」の勢いで全てが動く。先のことを考える習慣がない。でもだからこそ、考えている人が圧倒的に有利になる。
最高の時期に「これが永遠に続くわけがない」と冷静に見られるかどうか。これはネガティブ思考ではない。プロの思考だ。
太客はありがたい。でも、一人に50%を託すのは「信頼」ではなく「依存」だ。
「客を選ぶ店」が結局いちばん長く続くで書いた話はキャスト個人にもそのまま当てはまる。「誰をお客さんにするか」を選ぶのと同時に、「一人に頼りすぎていないか」を定期的に見直す。
太客との関係を大事にしながら、でもその人がいなくなっても立っていられる自分を作っておく。両立は難しい。でも、やらないと「ある月曜日」がいつか来る。
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