No.1が辞めた月、売上が30%落ちた。
よくある話だ。よくある、というのが問題の根深さを示している。キャバクラという業態は構造的に「人に客がつく」。どれだけ内装に金をかけても、どれだけ料理を良くしても、キャストが辞めればお客さんも一緒にいなくなる。
これをどうにかしたいと思っているオーナーは多い。でも「どうにかする」の方向が間違っていることも多い。
メッシが移籍したとき、バルセロナに何が起きたか
2021年、リオネル・メッシがFCバルセロナを去った。21年間在籍したクラブ史上最高の選手だ。
メッシが去った後、バルセロナの観客動員は落ちた。テレビ視聴率も落ちた。スポンサー収入も減った。「メッシのバルセロナ」を見に来ていた人が、メッシがいなくなった「バルセロナ」には来なくなった。
でもバルセロナは潰れなかった。苦しんだが、立て直した。若手を育て、新しいスター選手を獲り、チームとしてのアイデンティティを再構築した。
ポイントは、メッシの在籍中に「メッシだけのチーム」にしなかったことだ。メッシは最大の武器だったが、チームの哲学——ポゼッションサッカー、カンテラ(下部組織)からの育成——はメッシ以前から存在していた。メッシがいなくなっても、哲学は残った。
キャバクラに置き換えると、No.1は最大の武器だ。でもNo.1の在籍中に「No.1だけの店」にしてしまったら、辞めた瞬間に全てが崩れる。
「人につく客」と「店につく客」
お客さんを観察していると、二種類いることに気づく。
「人につく客」 は、特定のキャストに会いに来ている。そのキャストが出勤していない日は来ない。移籍すればついていく。店の名前は覚えていないかもしれないが、キャストの誕生日は覚えている。
「店につく客」 は、その空間が好きで来ている。お気に入りのキャストはいるかもしれないが、いなくても来る。店の雰囲気、スタッフの対応、立地、客層。そういう「店全体の体験」に惹かれている。
ほとんどの店は、この二種類を区別していない。「常連さん」とひとくくりにしている。でも、この区別を持っているかどうかで、キャストが辞めたときのダメージが全く変わる。
「人につく客」が100%の店は、キャスト一人の退職で壊滅する。「店につく客」が多い店は、痛手ではあるが持ちこたえる。
キャストが辞めても客が残る店は、何をやっているのか
いくつかのパターンがある。
初回の体験が「キャスト」ではなく「店」になっている。
初めて来た日に、キャストの接客だけでなく「この店いいな」と思わせる何かがある。入口の雰囲気、ボーイの接客、テーブルの配置、BGMの選曲。キャストが素晴らしいのは前提として、それ以外の要素で「また来たい」と感じさせる。
キャストが集まる店・集まらない店で書いたが、キャストが「この店で働きたい」と思う理由と、お客さんが「この店に来たい」と思う理由は、実は重なっている。店自体に魅力があるかどうかだ。
担当キャストが不在の日にも「来る理由」がある。
フリーで来ても楽しい。ヘルプの子も面白い。ボーイが気を利かせてくれる。——こういう店は、特定のキャストへの依存度が自然と下がる。「あの子に会いたい」で来店しても、「他の子も良かったな」で帰る。次からは「あの子がいない日でも、まあ行くか」になる。
キャストの「次」を用意している。
No.1が辞めることは、いつか必ず起きる。そのとき、No.1の常連に「次のお気に入り」を見つけてもらう準備ができているかどうか。これはつけ回しの問題でもあるし、キャストの育成の問題でもある。
属人性を「なくす」のではなく「分散する」
ここで一つ、大事な話をしたい。
「人に客がつく構造を変えよう」と言うと、「キャストの個性をなくして均質化する」と思う人がいる。全員同じ接客をさせる、マニュアル化する、個人の色を出させない。——これは完全に間違った方向だ。
キャバクラの魅力は「人」だ。その前提を否定したら、業態として成立しない。
やるべきは属人性の「排除」ではなく「分散」だ。
一人のキャストに売上の50%が集中しているなら、それは危うい。でも5人のキャストにそれぞれ20%ずつ分散しているなら、一人が辞めても80%は残る。
「俺がいないと回らない」が店を壊すで書いたオーナーの属人性と構造は同じだ。一人に集中したものは、その一人が抜けたとき全てが崩れる。分散していれば、衝撃は吸収できる。
「人につく客」を否定しない
もう一つ。「人につく客」は悪いことではない。
むしろ、キャストにとっては最高の評価だ。「あなたに会いたくて来た」と言ってもらえること。これ以上の仕事の肯定はない。
問題は「人につく客しかいない店」であって、「人につく客がいること」ではない。
理想は、人につく客と店につく客が共存している状態だ。キャスト個人の魅力で引き寄せられた人が、店全体の魅力にも気づく。店が好きで来ている人が、お気に入りのキャストを見つける。この循環ができている店は、誰が辞めても大きくは崩れない。
キャバクラの「ブランド」は作れるかで書いたように、ブランドとは「キャストが入れ替わっても残る、店の人格」のことだ。そのブランドが弱い店ほど、キャスト個人への依存度が上がる。
辞めた後の「引き継ぎ」という発想
現実的な話をすると、キャストが辞めるとき、お客さんの「引き継ぎ」はほとんど行われない。
一般的な企業なら、担当者が異動するとき顧客の引き継ぎをする。取引先の情報、過去のやりとり、注意点。全て次の担当に渡す。
キャバクラでは、キャストが辞めたらお客さんとの関係はそこで途切れる。誰がどんな人で、何を話していて、どんな接客が好きだったか。その情報は全て、辞めたキャストの頭の中にしかない。
この「情報の喪失」が、「客が一緒に消える」現象の一因になっている。お客さんはキャストに「理解されていた」から通っていた。新しいキャストはゼロからやり直し。お客さんにとっては「また最初から説明するのか」。それなら、辞めたキャストの移籍先に行った方が楽だ。
お客さんが人につくのは、この業界の弱点であり、強みでもある。
人がいるから来る。人がいなくなったら来ない。この構造を「なくす」ことはできないし、なくすべきでもない。でも「一人に集中させない」ことはできる。
キャストの個性を活かしながら、店自体の魅力も育てる。どちらかではなく、どちらもやる。
あなたの店は、No.1が明日辞めても持ちこたえるだろうか。
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