「いつか変えようと思っている」。
そう言いながら、5年間同じメニューを使い続けている店がある。紙は黄ばんで、ラミネートの端は剥がれかけている。価格も昔のまま。ドリンクの種類も昔のまま。
「変えた方がいいのはわかってる」。でも変わらない。
なぜか。
「面倒くさい」は表層だ
メニュー変更が面倒なのは事実だ。印刷費。キャストへの説明。お客さんへの案内。価格変更があれば、会計システムへの反映。ボトルキープの在庫との整合。全部やり直し。
でもこれ、本当に「面倒で変えられない」ほどの手間かというと、そうでもない。2〜3日あれば終わる作業だ。
本当の理由は別にある。
「今変えて、売上が下がったらどうするか」という恐怖。
今のメニューで今の売上が出ている。変えたら何かが変わる。その「何か」が悪い方向に動くリスクを、人間は過大評価する。現状維持バイアスという言葉があるが、要は「今うまくいっているものを壊したくない」という本能だ。
特に、長く続いてきた店ほど、「ここまでうまくいったのはこのメニューのおかげかもしれない」という思い込みが育っている。根拠はない。でも怖い。だから触らない。
メニューは「状態」ではなく「仮説」だ
立ち止まって考えると、今のメニューも最初は誰かが考えた「仮説」だ。
「このドリンクをこの価格にすれば売れるだろう」「このボトルはこのくらいの層に受けるだろう」——開業時や前回の改訂時に、誰かが判断した。その判断が正しかったのかどうか、検証されないまま今日に至っている。
メニューを変えないのは「現状を維持する」のではなく、「過去の仮説を検証しない」ことと同じだ。
市場は変わった。お客さんの年代も変わった。物価も変わった。競合の価格設定も変わった。でもメニューは変わっていない。
何から変えるか
全部一気に変えようとするから億劫になる。
一番やりやすいのは「価格だけ変える」か「一品だけ加える」ところから始めることだ。
価格改定は今の環境では正当化しやすい。仕入れコストが上がっている。光熱費が上がっている。このご時世に値上げに驚くお客さんは少ない。むしろ「今まで据え置きにしてくれていたんだ」と好意的に受け取られることもある。
一品加える場合は、「季節限定」という括りが使いやすい。失敗しても「期間限定だったから」で終わる。でも当たれば定番になる。低リスクで実験できる。
変えない理由が「お客さんのため」になっているとき
「うちの常連さんは今のメニューに慣れているから」。
これが理由になっているケースが一番根が深い。
常連のためにメニューを変えないのは、一見すると誠実だ。でも実態は「変えることへの恐怖を、お客さんへの配慮という形に言い換えている」だけのことが多い。
常連に聞いてみると、たいていは「別に変わってもいいよ」と言う。そもそも気にしていないことも多い。気にしているのは店側の方だったりする。
「常連」という言葉の使い方を間違えている店でも書いたが、「常連のため」という言葉は、ときどき「変化への抵抗」の隠れ蓑になっている。
変えたら何を見ればいいか
メニューを変えた後、何を見ればいいか。
一番シンプルなのは「変えた品目の注文数の変化」だ。変えた前後で比較できる。これがPOSデータで把握できていれば、「この変更は正解だったか」がわかる。
感覚ではなくデータで見ると、次の判断がしやすくなる。「あのドリンクを追加したら注文が増えた」という事実があれば、次の変更の根拠にもなる。
メニューを変えることより、変えた結果を見る仕組みがないことの方が問題かもしれない。
変えることが目的ではない。止まっていることが問題だ。
今のメニューが「最善」と言えるなら変えなくていい。でも「最善かどうか確かめたことがない」なら、一度手を入れてみる価値はある。
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