金曜の23時。テーブルに3回戦目のボトルが入って、キャストが顔を赤くしながらショットを煽っている。お客さんは楽しそうで、伝票も伸びている。一見うまくいっているように見える光景だ。
でも、翌朝そのキャストは出勤できなかった。
週に一度でも、月に一度でも、こういうことが起きている店は多い。そのたびに翌日のシフトを組み直して、穴埋めして、また同じことが繰り返される。誰も悪くない。悪くないけど、正直これはもったいない。
「飲める子」と「飲まなくても売れる子」の差
はっきり言う。この差は、才能じゃない。
飲んで潰れるキャストは、飲むことが「仕事の本体」だと思っている。お客さんに気持ちよくなってもらうための手段として、自分が飲む。それしか方法を知らないから、ペースを落とせない。断る言葉を持っていない。結果、限界まで飲んで、最悪の場合は席を外して戻ってこない。
一方、飲まなくても売上を作れるキャストはどうか。
「今日はちょっとペース落としますね、調子上げてきますから」と言いながら、水割りをゆっくり飲む。それでもお客さんが「楽しい」と感じて帰る。次回の予約が入る。なぜそうなるかというと、飲むこと以外の接客ツールを持っているからだ。会話の引き出し、空気の作り方、席の間の時間の使い方。これが揃っているキャストは、飲まなくても場を持たせられる。
この差は、最初から決まっているわけじゃない。教えているか、教えていないか、だ。
「飲め」は言えるが「こう飲め」は教えられない
キャバクラのスタッフ教育として、飲み方を体系的に教えている店はまだ少ない。
なぜか。難しいからじゃない。言語化されていないからだ。
「お酒は強くなくていい、でも楽しそうに飲む雰囲気は作れ」「断るときは断る前に盛り上げる」「水割りをゆっくり飲みながら話を引き延ばす」。こういうことを、できるキャストは自然にやっている。でもそれは教わったわけじゃなくて、見て盗んだか、失敗しながら身につけたかのどちらかだ。
だから店として教えようとすると言葉が出てこない。「うまいことやれ」「空気を読め」で終わってしまう。
正直、ここが一番キツいところだと思う。教育しようとしたとき、最初に詰まるのがここだ。
バーテンダーの「飲ませない接客」という発想
少し視点を変えてみる。
バーテンダーには「飲ませない接客」という考え方がある。これは、お客さんを酔いつぶすことが目的じゃない、という当たり前の話なんだけど、ちゃんと言語化されているところが違う。
たとえば、「今夜3杯目ですか、少しペース落としましょうか」と自然に言える。水を出すタイミングを計算している。お客さんが飲み過ぎないように管理しながら、でも場の楽しさは維持する。これが一流のバーテンダーの仕事だとされている。
キャバクラに直接当てはめることはできない。業態が違う。でも「場を楽しくすることと、飲ませることは別物だ」という軸の持ち方は、そのまま使える。
キャストがこの軸を持てると、「飲まなくても売れる」という状態が作りやすくなる。お客さんに楽しんでもらうことが目的で、飲むことはそのための選択肢のひとつでしかない。そういう整理ができていると、断り方も自然になる。
具体的に何を教えるか
では実際に、飲み方の教育は何から始めるか。
ペースの目安を持たせる
まず「自分の限界」を把握させる。週に一度、自分が翌日に残らない量を意識させる。これは店全体の課題でもある。個人の体調管理に任せきりにすると、頑張ってしまう子ほど潰れる。
断り方の言葉を用意する
「いやー、あと飲むとほんとやばいので、ちょっと遅めに飲ませてください」「代わりにお話めっちゃしますから」みたいな、場の空気を下げない断り方をロールプレイで練習する。言葉を持っておくだけで、使えるかどうかが変わる。
飲まずに盛り上げる技を1個持たせる
話のネタ、得意な話題、好きなゲーム。なんでもいい。飲む以外で場を持たせられる得意技を1個用意させる。これがあると、飲めないときのごまかしが効く。
これだけでいい。難しいことじゃない。でもほとんどの店でやっていない。
「飲める=偉い」をどうするか
一方で、この文化を変えることには慎重でありたい。
キャバクラにおいて「一緒に飲む」ことには本物の価値がある。お客さんが酒を飲みながら気が大きくなって、場の盛り上がりが生まれる。キャストが一緒に飲んで「同志感」が出る。このダイナミクスは否定できない。
「飲める=偉い」という文化は、ここから来ている。そしてそれ自体は悪くない。
問題は、飲めないキャストや飲みたくない夜のキャストが、売上を作る方法を持てていないことだ。「飲まなくていい、でも売上は作れ」と言うだけでは、ただ詰めているだけになる。
だから教育は「飲むな」じゃなくて「飲まなくても戦える武器を持て」の方向にする。その武器を持ったうえで飲むキャストは、もっと強くなる。
店として何ができるか
最後に、スタッフに伝えるより先に、店として整えておくことを書く。
スタッフが「無理です」と言える空気を作る
管理職やリーダーが率先して「今日は飲みすぎないようにしよう」と言える店は、キャストが正直に言いやすくなる。これは文化の話だから、トップが変わらないと変わらない。
翌日のシフトを潰した子を責めない仕組み
潰れて休んだことをきつく叱ると、次は隠して無理をする。そうじゃなくて、「今回どれくらい飲んだか、何があったか」を振り返る会話ができると、次の教育につながる。
売上データを見ながら話す
「あの子、飲んでた日と飲んでない日で指名数変わってる?」こういう会話を、感覚じゃなくてデータでできるようになると、教育の精度が変わる。売上が上がっている日にキャストが何をしていたかを振り返れると、「飲まなくても売れている」事実が見えてくる。
感覚だけで動いている店と、数字を見ながら動いている店では、スタッフ教育の質が変わってくる。「あの夜は何が違ったか」を掘り下げられるかどうか、が分岐する。
マネジメントの基本は「良い状態を再現できるようにすること」だ。飲まなくても売れた夜を再現できるようにする。そのための言語化と教育が、飲み方の話の本質でもある。
「飲み方を教える」というのは、結局、売上を飲むことだけに依存しない店を作るということだ。
それは、キャストを守ることでもある。
まとめ
- 飲めないキャストが潰れるのは才能の問題じゃなく、飲む以外の方法を教えていないから
- 「場を楽しくすることと、飲ませることは別物」という軸をキャストに持たせる
- 断り方の言葉とごまかし技を1個、ロールプレイで練習させるだけでいい
- 教育は「飲むな」ではなく「飲まなくても戦える武器を持て」の方向で
- データで振り返れる店は、良い夜を再現できる
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